麗らかな春の日差し。窓から差し込む日差しの暖かさにソファの上でうとうとしていたが眠ってしまうのは、まぁ仕方のないこと。今日は来客の予定もなく外にはしっかり「邪魔をするな」と張り紙もしている。大人しく寝かせておいてやろうと、時折寝言で己の名を呼ぶものだから気分もよく、サカズキ、カリカリ、とペンを走らせて仕事中。珍しく今日は定時に上がれそうなほど普段以上に仕事も捗り、急な仕事の舞い込む気配もない。この分なら夕食はどこかに連れいってやれるかと、そう思いつつ、仕上げた書類に判を押して脇へ重ねた。既に大量ん処理済、それでもその倍以上のものがまだ傍らには残っている。どこぞの大将二人が真面目に仕事をしないものだから、こういったデスクワークの大半はサカズキに回ってくる。年上であるボルサリーノはできぬ、というわでもないのだが、いろいろと不備があっては二度、三度の手間になり、クザンとて大将、処理能力があるのにやる気になることが滅多にない。そのおかげで生真面目、完璧主義者、やるんだったら徹底的に、のサカズキに皺寄せが来るのだ。

ころん、と、が寝返りを打った。真っ赤なソファの上、暖色の髪が日の光を受けてキラキラと輝いている。つぃっと、サカズキはそちらに視線をやって、眉を寄せる。立ち上がって壁にかけている例の正義のコートを手に取り、に近付いた。春先、とは肩を出して寝ていては風邪をひくかもしれない。

コートをかけておこうと、そう腕を伸ばしたところで、バタン、と、執務室の扉が乱暴に開いた。

「サカズキ、お前を男と見込んで頼みがある!!!!」
「……ワザとか?貴様……」

空気読まず、張り紙も読まずに無遠慮にやってきた数少ない同僚。せっかく、せっかくいいところだったのに、とサカズキ、フルフル震えながら搾り出すように言った。





いや、なんか突発的に?

 

 




「ん、ぁ。……あ、れ?ぼく、寝てた!?」

クザンの飛び込んできた騒音に、ぱちり、と、が目を覚ました。自然に目が覚めたわけではなく、どちらかといえば叩き起された、ようなので、ぼうっとした声、それで、自分が寝ていたことに気付き、驚いて顔を蒼白にする。暇で、暇で、退屈で、でも、天気もいいし、サカズキもなんだか今日は機嫌が良さそうだったから、もしかしたらあとで少しだけ、喋ってくれるかもしれないと思って、それを待っていようとソファの上でうとうとしてしまっていたら…寝てしまった!!!?

「…あ、パン子ちゃん。悪ぃね、起こしちまったか」

まずい、まずい、とってもまずい。よりにもよって、サカズキが仕事しているときに自分だけぐーすか寝ているなんて、怒られる!とが顔から血の気を引かせていると、なぜか、クザンがいた。

「あ、あれ?クザンくん?」

見ればクザンとサカズキが、なぜだかには検討も付かないのだけれどぎじぎじと、お互い両手を相手の手とあわせてギジィィィと、押し合っている。

「なにしてるの?二人とも」

ケンカ、ではないと思う。この二人そりは合わないらしいけれど、仲は悪くないとは知っている。きょとん、と顔を幼くして首をかしげると、サカズキがばっと、クザンから手を離してに視線を向けてきた。

「私が仕事中だというのに、いい気なものだな」
「……あ、う…ん」

ごめんなさい、と、消え入りそうな声。が辛そうに眉を寄せて俯いた。そういう顔をさせたいわけではないのだけれど、クザンの手前甘い言葉などかけるつもりのないサカズキ、容赦なくを睨む。

「あー、ごめんねー、パン子ちゃん。邪魔しちゃって」
「うぅん、クザンくんは悪くないよ。起こしてくれてありがとう」

気遣うクザンが頭をかきながらダルそうに言えば、がにへら、と、小さく笑った。余計にサカズキが苛立つが、それはの知るところではない。

「それで、何だ、クザン」
「いや、あのさ、助けて欲しいんだけど」
「そうか、断わる。帰れ」

しっし、と手まで振られた。まだ用件も言っていないのだが、と言おうとすればその前に、「貴様のことだ。ロクでもないことだろう」とにべもない。そのきっぱりとした物言いには、さすがにクザンも眉を顰めた。

「ロクでもなくないって。のことなんだけど」

。クザンのところの海兵。養い子、だのなんだのと噂はあるが、まぁ、それはどうでもいい。その、とても優秀で、サカズキはよく「うちにこないか」と誘いをかなりの本気でかけている。それを知っているクザン、きっとサカズキであれば助けてくれるだろうと思い、その名を出せば、予想通りぴくり、と、反応した。そして机に周り、安楽椅子に腰掛ける。ゆっくりと背を背もたれに預けて一言。

「ついに愛想を付かされたか」
「コラコラコラ、物騒なこと言わないでよね。パパと娘の信頼関係はいつでもばっちりだから。お前さんと違って」
「……たたき出されたいのか、貴様」

すいません、今のはちょっと言いすぎました。と、素直にクザンも反省。それで、誤魔化すように頬をかき、話を続ける。

「最近めきめきと強くなってきたじゃない?うちの子」
「あぁ、貴様のところにおいておくなど惜しすぎてしようがない。さっさと私に寄越せ」
「だからシイは物じゃないからそういう言い方するな。ついで言えば絶対おまえに渡すつもりはねぇからな」
「本人の意思が将来どうなるかなどわからん」
「い、言うねぇ……」

今のはちょっと効いた。クザンは少々怯みかけ、しかし、きょとん、とことの成り行きを不思議そうに眺めているに気付き、にやり、と顔を歪ませる。それにサカズキが嫌な予感を覚えた。

「おい、クザ、」
「そうだねぇ、それじゃあパン子ちゃんが俺んトコ来てくれるならいいよ?」
「え、ぼく?」

小さなに目線を合わせるように腰を折り、膝を折って、クザンはの頭をよしよし、と撫でる。大きな目をまんまるに開いて、はぱちり、と瞬きをした。

「いいじゃないの?ねぇ、パン子ちゃんだって暴力ばっか振るうおっかない大将より俺んトコの方が楽しいだろ?俺はサカズキと違って怒らないし、絶対にぶったりしねぇからな。毎日だって遊んでやれるよ?」

まぁこの世界にサカズキよりおっかない生き物などいないのだから、別に自分のところでなくとも「今よりはマシ」だろうとクザンは心底思っている。別段本気で言ったわけではなく、シイを諦めないサカズキが絶対に「是」と言いそうにないことだったのでとりあえず言ってみたのだが、口に出してクザン、本当に、が自分のところに来れば良いのに、と思ってしまった。シイと引き換え、にするつもりはないが、しかし、本当に、サカズキのところからこの小さな子供を助けてやれれば。

「……ぼく、でも、ぼくは」

驚いて目を見開いていたは、クザンがよしよし、とやさしく頭を撫でるたびに、びっくり、おっかなびっくり、小さく震える。胸元に持ってきた手がもじもじ、と、何か躊躇うように動き、つぃっと、サカズキのいる方へ顔を上げた。

「そう睨まないの、サカズキ。本人の意思がどうなるか、だろ?」

先ほどサカズキに言われたことを、しかえし、というか、防御のように言えば、を物凄い目で睨んでいたサカズキが目を伏せた。

「……好きにしろ」

なんでそう素直じゃないのか。クザンは溜息を吐き、もう一度を見る。ぎゅっと、は掌を握って、頷いた。

「ぼく、ぼくは、サカズキのところがいい」

振られました。

あっさりと、ばっさり、少し言いづらそうにしているのはクザンへの遠慮ではなく、こんなことを言ってもサカズキは嫌だろう、と、そういう、怯えだ。何かもう、いろいろ言いたい。

(だから、お前らさっさと結婚してくれよ!!!!)

クザン、ヒエヒエの実の能力者。自然系、序列・階級は上位の者である。エニエスのパンドラにしっかり謁見してしまってからは(あれはかなりの不幸な事故だった)立派に「飢餓」も経験している。正直、のことを大切にして、できれば、自分が守ってやりたいと、そう思う心があるのだ。(それがクザン本人の意思でないにしても)

だからちょっと、こう、無駄と分かりつつも勇気を出していってみたのに、全く、馬にけられろってことですか?これ。なんて、居た堪れなくなってぼーん、と、壁際にぶつぶつ文句を言ってみる。

「サカズキは、ぼくがいたら……迷惑?」
「くだらんことを聞くな」
「…ごめん」

そんな落ち込みモードに突入したクザンを完全に放置して、なんだかほのぼの、とした(クザン的には)会話を始める二人。不機嫌そうにを一瞥するサカズキだったが、同僚、同じ時期に入隊し、同じ時期に階級の上がってきたクザンには分かる。

(あー。腹立つ。何幸せ感じてんだか……)

の先ほどの「サカズキのところがいい」の発言時、クザンにはサカズキが背後でガッツポーズしなかったのが不思議なくらいだった。だから、どうしてお前らはこんなにすれ違っているんだと、本当、溜息しか出てこない。

「ところで、いつまでここにいるつもりだ。クザン、邪魔だ。出て行け」
「いや、だからさ、助けてって言ってるじゃん」

そうそう、そういえば本題。すっかり忘れていた、わけではないのだけれど流れていたことがらを思い出し、クザンはすくっと、立ち上がる。いつのまにかがちょこん、と、サカズキの執務机の上に腰掛けている。

「断るといっただろう。帰れ」
「シイのことだって言ってるだろ。助けてよ」
「ならさっさと用件を言え」

聞くかどうかは話を聞いた後に決める、とそういう姿勢にはなってくれた。ほっと息を吐いて、クザンはぽりぽり、頭を掻く。

「最近ねぇ、あんまりパパと遊んでくれないのよ」
「貴様は仕事をしろ、仕事を」
「それに強くなっちまって、あ、元々強いんだけどさ?うちの子。最近心配になるわけよ?女の子なんだから、もう少し柔らかくってもいいんじゃないかなぁって」
「余計な世話だろうな」

ばっさり、サカズキは切り捨てる。あの娘、あの海兵、中々に強く、意志もはっきりしていてサカズキは気に入っている。女性、というのがさらに良い。それであればの護衛にしたとしても心を惑わされて自分が余計な気を揉む必要もない。能力者だが自然系、動物系ではないのだから飢餓に襲われる心配もない。しかも珍しくが「嫌い!」と前面に出して当然の顔をしている。下手に懐かれて失ったときに嘆かれるより、よほどいい。
純粋に己の配下に欲しい、という大将としての意見もあるが、サカズキ、頻繁にを誘う裏、六割方が前者の理由である。まぁ、それはどうでもいいとして。

その、クザンのいう「娘らしさ」は、まぁ、確かに、ないかもしれない。(おい)しかしそんなもの必要か、とサカズキは思う。強いことが海兵である最低条件。それを十分満たしている彼女にサカズキは他に何が必要か、と心底思う。

(まぁ、このバカはあの娘に海兵、部下以上の感情を持っているから、仕方のないことだろうがな)

このロリコンが、と胸中で罵る。ちなみにサカズキ、自分がそう、という自覚はない。さっぱりない。

「で、結局何なんだ」

さっさと用件を言え、というのにこのままぐだぐだと愚痴を言われそうな気がして、サカズキは最後通告、とばかりに切りまとめる。既に三十分、時間を無駄にしている。まだまだ片付けなければならない仕事はあるのだ。この馬鹿に構っている暇はない。

サカズキに睨まれて、クザン、どっがりと赤いソファに腰掛、ぽつり、と、呟く。

「かわいい格好したとデートがしたい」
「帰れ」

なんで話を聞いてしまったのか後悔するほどくだらないこと、サカズキは文鎮をクザンに投げ付けた。しっかり覇気も纏わせているので自然系だろうと関係なくぶちあたる。




Fin


FAISAN様のところのお嬢さま嬢のいる世界、でのお話。
いつものことですが、完全趣味です。いや、嬢のキャラがまだつかめてないのですが(研究中)でなくてもこういう感じの日常はあるだろうなぁ、と。
出番もないのでこれ共演?とか思わなくもないですが、まぁ、贈呈するわけじゃないですからいいですよね!!
普通に続きそうですよね。次はヒロインのターン!!


最近共演と言う名の得体の知れないものを量産するのがすきです。
もう自分終わってますね☆




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