限りなく、光に近い色は何と表現すればいいのだろう。ルッチのこれまで学び記憶してきた幾程の言葉を駆使しても見当たるものがなかった。エニエスロビーの最奥に隠された塔の一室、厳重に警備されているであろうことがルッチの目には明らかにわかるのに、どうしてか、忍び込むことは容易い、空中庭園。硝子窓が八方に巡り溢れる陽は立ち並ぶ木々により木漏れ日の淡い光となる。それを受けて煌く「彼女」の髪の色の名がわからなくて、ルッチは途方にくれていた。



 

少年は、ロブ・ルッチ。名高い「オハラ」での一件に関わった当時のCP9の一人を父に持つ、花も実も供えた少年である。

いまだ幼い要望なれど、その整った顔立ちは子供らしさなど欠片もなく、眼を細めて人を睨む様は氷のよう。黒真珠の瞳は常にどんよりと沈み、底の知れぬ深い闇を抱えておる、彼は将来きっと「我らの闇」を背負ってくれるものと、周囲の期待も高い子。

 

その、ルッチ、この七日ばかり程、どことなく、落ち着かぬ。人には知れぬように注意を払ってはいるが、ルッチ、己で己を自覚していた。幼いとはいえ、彼はCP9、正義のために血を浴びることを「当然」と乳母車の中より定められた生き物。感情を押し殺すなどお手の物、のはず。というに、その己が動揺している、と、ルッチ。

訓練を終え、その後の子供らの「遊び」にも参加せずに早々と部屋に引き上げる。これまでであれば、熱をいれずとも年下のカクやカリファなどに構うことはしていたが、今は、そのようには出来ぬ。

 

とさり、と、寝台に身を横たえて目を伏せる。

 

瞼を閉じずとも、一日中脳裏に浮かんでやまなかった「彼女」の姿がはっきりと、いっそう、明白に思い浮かべられた。僅かの時を見ただけの、彼女の姿。

白皙の肌、海の光る瞬間と同じ色の髪、薔薇色の脣、精巧を極めた人形師の手による作品の如き、「彼女」の姿が截然と瞬膜に思い出される。

 

(なぜ)

 

炎が身を焼くようだ、呪いか、捕らえられている。もう一度、再び彼女をこの目に見たいと、ルッチには覚えのない欲が肥大して、仕方がない。喉の奥から、己のものではないものの声が溢れてくる。己の身の内から出でるこの感情の名をルッチは知らぬ。低い、獣が唸るような、声。

押さえ込もうと、必死で身を縮めた。幼い体、けれど訓練を受けて歳にそぐわずに育つ、力のある四肢は容赦なくルッチの骨を軋ませた。ミシミシと、体内で己の出す音が、獣の呻きより強く響けば、良いと思った。

 

(この感情は、俺のものじゃない)

 

and that's all?



 


(解っていて、それでも、餓えは止まない)