*このお話はwj沿いですがLOST(番外)扱いなので本編に連動しているかの確立は低いです。どっちかというと、本編扱いにするとヒロインが何考えてるかわかって面白くないので
ここは番外というか、一種の二次創作だとお考えください。←
ご登場いただいたのは
AO1009IKIは春日さまのところのSii嬢です。
以前頂いた
共演作品と連動しております。
ドフラミンゴがどこかへ行った。おそらくは、これから起こることへのいろいろな準備があるのだろうと思う。は一人残されたドフラミンゴの部屋、ソファに埋もれつつ、刻一刻と迫りくる己の焼失の瞬間を、一秒でも先延ばしにするにはどうすればいいのか、とそんな無駄なことを考えた。眠い、あまりに、眠すぎる。こうしてぼうっと、ただ眠りの淵に近づく間際を漂ってきれば、きっと何もかもが終わるのだろう。それが分かっているから、もう目を閉じることができなかった。
そのの頭を、ゆっくりと撫でる手がある。はっとして目を見開き、顔を上げる。見慣れた、とても、良く知る、黒髪に黒い目の、青い軍服姿の女海兵が、いつのまにかの頭を撫で、立っていた。
「どうして、君が…今、ここに来るの……?」
インペルダウンからこの場所の戻ってきてから、ただの一度も崩れなかったの顔が、悠然と笑む、どこか狂女のような危うい光を当然のようにたずさていた瞳が、崩れた。
「Sii……!!」
砕けた破片、キラキラと
「パンちゃんがいるところなら私は火の中水の中。二十四時間どこでも出張可能だ」
ぐっと、自慢げに親指を立てていつもの調子。口元にどこか挑発めいた笑みさえ浮かんだ黒髪の女海兵。クザンのところの秘蔵っ子、海軍本部では鬼教官の異名を取る、Sii准将その人。との縁は海軍うんぬんではなくて、Siiの御家柄からなる。Sii、本名はも知らぬ。名前など持ち合わせていないのだと堂々と言われた、出会ったばかりの幼いころは、今とはまた別の名では呼んでいた。その、Sii、トリアイナという一族の末裔。パンドラ・の生きたあの王国の歴史や、その前の世界の歴史を一部の違えもなく承知してきた唯一の一族。それで表にどうと出ることもない。ただ、まるでおとぎ話のように「いないけど、でもいたらいいよね」だなんておぼろげな程度の存在率を世界にまき散らし、悠々と自由に、ただ、歴史の流れが闇に左右されぬようにと見守る一族、である。
当然、王国の生き残りであったパンドラ・、それにその影法師とされてきたとも、歴史上何度かの接近があったもの。それではトリアイナのしつこさやら何やらすっかり嫌いになっていたのだけれど、Siiは、また別になっていた。最初は鬱陶しくて、本当に、消えてくれればいいのにと、己にしては珍しく本気で煩わしく思っていたのに、しかし、いつの間にか、これは本当にどういう冗談なのかは未だに不思議なのだけれど、Sii,は、の友達になっていた。
「僕は呼んでないよ。Sii、なんておよびじゃないよ」
いつもいつも、Siiはに所構わず構ってくる。はっきり言って迷惑なんだけど!!?と大声で拒否したところで堪えるような生易しさは持ち合わせていない。親の顔が見てみたい、なんて間違っても言おうものなら、死亡説のある例の石のようなトリアイナがひょっこり現れてまた再三に「すべてを取り戻せ」だとかなんだとか言うのだろう。
なんでこのタイミングでこの台風みたいな生き物は現れるのかと、はため息を吐きたくなった。トリアイナは歴史の流れに敏感だ。で、あれば、この状況、現在の情勢にだっていろいろ行動するのだろう。どうこうするのかなどの興味のあるところではないにしても、これらのすることと、トリアイナがしなければならぬことは、一致しない。
だから、ここで彼女がの前に現れるのは、まず道理にならぬこと。
それで、呆れてものも言えぬ、とそういう顔をSiiに向けると、黒髪の彼女、一瞬「うーん」と考える素振りも見せずにあっさり、堪える。
「そんなことは関係ない。パンちゃんが泣いてるから来た」
「僕は泣いてない!」
「泣いている、聞こえるんだ」
キッとはまなじりをあげ、Siiの手を振り払う。パシンと乾いた音がして、普通は気まずい空気でも流れるはずなのに、Siiは何も気にしない。きょとん、不思議そうな顔さえしてを見つめ、そして、微笑む。
「私は何もできないけれど、でも、パンちゃんを一人きりで泣かせることなんかできやしないよ」
かっと、は頭に血が上りかけた。どんな人の罵声も何もかも、あっさり「ふぅん」と一言で流せるこの己、しかしSiiの言葉にはいつもいつだって、真正面に受け取ってしまうことがあった。それで振り上げた手をSiiに下しかけ、だが、ぐっと、耐える。
ここで己が、素に戻ってしまったら、これまでの何もかもが、一気に瓦解してしまうような気がした。これから自分は時間が限られていて、その中で必死に、しなければならぬことが多くある。今、これ以上Siiと話しては、きっと、自分はダメになる。それが分かっているから、耐えて、ぐっと、Siiの胸倉をつかんだ。
「帰って。Sii准将、ここは七武海ドンキホーテ・ドフラミンゴの部屋だよ。白ヒゲ戦がどうなるか政府の憂い、戦力の彼の気に障るようなことは極力控えるべきだ。無断侵入なんて、するべきじゃあない」
わかって、いるよね、と、はっきりと声を出して確認する。Sii、Sii、トリアイナ。それでも今は海兵だ。Siiの身はクザンの預かりとなっている。Siiが何か問題を起こせば、それはそのままクザンの責任となる。Siiが海軍にいるのはクザンがいるからだ。クザンのタメ、かどうかは知らない。それでもクザンの存在があって海軍にいる以上、ここで何か「問題」をSii准将が起こすことは、彼女の存在定義を崩しかねないこと。いや、そんな大それたことではないにしても、ゆゆしきこと、とは言えるもの。
それで、そう、退け、と込めて言うのに、Siiは首を傾げるだけ。
「どうして、ドフラミンゴといるんだ?パンちゃんはサカズキさんが好きなんだろう」
ばっと、はSiiから飛びのいた。トカゲに言われても、ドフラミンゴに「そうだろう」と突き付けられたところで、今の自分はほほ笑み受け流す心がある、はずなのに。ドクン、との心臓が波打ち、目を見開いてSiiを見つめる。信じられぬことを言われた、よう。棘が身を刺したような痛み、顔をしかめて、唇を噛む。
そのの様子を眺めて、Siiが静かに続ける。
「パンちゃんが決めたことなら、私の口を出すことではないけど、でも、パンちゃんはサカズキさんといるべきだと思う」
「白々しい、ねぇ、Sii,トリアイナのご息女。君は知っていたんでしょう。僕のこと、僕が、パンドラ・ではないって、400年前に何があったのか、何もかも、君たちは知っていたんでしょう」
それでもまだ、には余裕が残っていた。ほんのわずか、古いにかけてほんの一つまみ、程度の残ではあるけれど、しかし、まだ余裕があった。
これ以上、こうしてSiiといるのはよくない。早く、早く、早く、彼女をここから追い出さなければ。
「知っていて、白々しくいつもいつも、代々、このぼくの前に現れて、「何もかもを取り戻した方がいい」だなんて、ことを言ってきたんだ。君たちは、いつもそうだよね。自分たちじゃ何もしないのに、何もかも、知っているのに、いつだって、他人任せじゃないか」
言って、言いながら、は歯を食いしばった。
彼女を追い出すため、傷つけるためにつらつら吐いた言葉が、だんだんと心の中で重くなる。言いながら、自分の感情が高ぶってきてしまう。
だから、だから、嫌だったのだ。ドフラミンゴ以外に、自分はひどいことを言えば、とても、とても、嫌な気持ちになる。どうして、こんなことを言わなければならないのか、わからないのに、言いたくないのに、言ってしまう。それが、嫌だったのに。どうしてSiiは、そんなこと関係なしに、自分の前に現れるのだろう。
トリアイナは、そういう生き物だ。何とかしようと、身を投げる。それでも歴の流れというのは、もはや人知を超えた力を持っている。どれほどにトリアイナたちが声を張り上げたところで、悲劇の食い止められることは本当に少なかった。
彼らは、“幸運”のようなものなのだと、お師匠様がいつか語っていた。彼らは様々な出来事の中に、はっきりとした形としては現れない。たとえばルビーを50年捜し続ける男の前には、その足下に転がる石となって現れるような、そんな、些細な、気づかれなければ、物語の主人公が彼らの存在に気づき、必死に知らせる声に耳を傾けなければ、彼らは何もできない。いつだって、行動を起こすのは、彼らではなく、歴史の当事者たちでなければならないのだと、そう、師が教えてくれた。それが、それこそが、彼らが世の常識では考えられぬ存在となった対価なのだという。
だから、今、がこうしてSiiを、トリアイナを非難することは、にはできぬはずなのに、はきちんと、トリアイナというものの弱点を知っているのに、それでもこうして、酷いと、喚く。
冷静であり続けるつもりだったのに、とん、と、の中で何かが外れた。どっと、押し寄せる感情をそのままに、声を上げる。
「知ってたのに、最初っから全部知ってたのに……!!!!どうして、どうして、何も教えてくれなかったの!!!!」
400年前。パンドラの箱から飛び出した己は、ノアと共犯してパンドラの魂を箱に封じた。それで、狂気に染まった彼女を眠りにつかせ、そして、世界の敵の代理人として己がになった。その時に、記憶の一切が対価として奪われたのだけれど、もし、トリアイナが、過去何度もと接触してきたトリアイナが、そのことを教えてくれていれば。
(こんなに苦しむこともなかったのに)
理不尽、だとは思う。彼らにそう罵られるいわれはない。それなのに、もう、たまらずに、はばしん、とSiiの胸を叩いた。乱暴だが、力のない、ただの、あて身とも言えぬもの。そのままどっと、はSiiを押し倒した。程度の非力なものがどうこうできるわけもないのに、あっさりとSiiは後ろに倒れこむ。それで、そのままずるっとSiiにしがみついたを、抱き締める。
「嫌い……!!嫌い、嫌い嫌い嫌い!!!Siiも、トリアイナも、大っきらい!!!」
何もかもが、もう、どうしようもなくなっているのだ。パンドラ・が目覚めてしまう。自分が、自分がサカズキを好きになってしまったから。どうしようもないほどに、サカズキのことを、好きになってしまったから。サカズキが無事でいてくれるなら、何も望まないと、そんな、ことを願ってしまったから、一人ぼっちになった、が目覚めてしまう。
自分が、何もかも悪いのだ。Siiは何も悪くない。それなのに、ののしる言葉しか、出てこない。
それなのに、Siiはを抱きしめてくれる。そっと、優しく、ぎゅっと、抱き締めてくれる。ささくれ立った心が行き場をなくしぐるぐると、いっそ吐き気さえするほどに巡り、はそっと、息を吐いた。
「もう、どうすればいいか、わからないよ……トリちゃん」
ひくっ、と、嗚咽が漏れた。もう二度とその名では呼ばぬと、呼んでやらぬと決めていたのに、それでもあっさり、昔のとおりに彼女を呼ぶ己。虚勢を張るのは平気だった。もう何も感じぬと、どうでもいいと、ただ、を救うことだけを考え、他はどうなったって構わない、そんな、冷酷、非道、鬼畜、外道の仮面を被り続けていればよかった。
それなのに。
「どうして……こんなに、苦しいの……?」
震える体を必死に押さえつけて、ぎゅっと、Siiの服を握りしめる。カタカタと、寒くもないのに体が揺れる。どうしようもないから、だから、自分がしてあげられることをしようと、そう強く決めた心。
何もかもを思い出した。だから、サカズキのことなど、しょせんは長い時間の一時のこと、そだけだのはずなのに。なのにどうして、自分はまだ。
食いしばった歯から悲鳴のように洩れる声。強く閉じた瞳からでも、あふれ出てきてしまう涙。もう、どうすればいいのかわからない。
「……わかんないよ……ねぇ、トリちゃん。どうしよう、ぼく、ぼく、ぼく、ね、」
ただ、一緒に死んでくれると、誰もしてくれなかった約束をしてくれただけだ。でも、サカズキはも、も救えはしない。ただ約束を、してくれただけだ。結局は一緒に死んではくれない。たとえ、本当に死んでくれたとしても、それがなんだというのか。そんなことで、救われるわけがない。
たかが一人の死でどうこうできるような、暗黒の知恵ではない。それなのに、自分はあの人に手を差し伸べられ、「共に」と、そう、行ってくれた声に、言葉に、瞳に、恋をしてしまった。
これから自分がしなければならないことはわかっている。自分がどうなるのかも、わかっている。ドフラミンゴにひどいことをして、そして、ドフラミンゴも、とてもひどいことをするのだろう。何もかも、もう決まってしまっているのに。どうしようもないのに、それなのに、それを、受け入れたはずなのに。
「サカズキのこと……すきなの……」
夜が来るのが怖かった。記憶もないころ、ただサカズキのそばにいて、ドレークがいて、サリューがいて、Siiがいて、クザンがいて、それで、少しずついなくなってしまったけど、でも、海に行けば会えた。サリューとドレークが結婚でもして子供を作るのが楽しみだった。Siiとクザンがさっさとくっつけばいいとおつるとお茶をするのが楽しかった。夜が、来るのが怖かった。
(夜は、目覚め。夏の庭に夜が来れば、夏の庭の魔女が目覚める。僕が、リリスになる)
どこかでぼんやりと、記憶を失いながらも、感じていたのだ。逃げて、いたのだ。ずっと、ずっと、このままでいられたらと。このまま、何も知らぬ。のことも、呪いのことも、咎人の血のことも、何もかも、知らないまま、ただ世界の敵の影法師として、サカズキのそばにいて、時々海賊船に乗って旅をして、笑って、泣いて、声を上げて、歌ったり、していたかった。
(ずっと、ずっと、このままで。だなんて、望んではいけないのに。そんな資格は自分にはないのに)
自分のせいで、パンドラ・は楽園を追われ、咎人となり彷徨い、王国に流れ着き、そして悲劇を体験して、流れた時間が彼女の心をむしばんだのに。それをただ自分は眺めていただけだ。それで、を救うためだと言いながら、になって体を得て、記憶を失うことで、何も知らない、ただの小さな子供でいようとした。いや、違う。最初は、本当にを救うつもりだった。世界の敵の代理人になることによって記憶を失うこともわかっていて、それでもを眠りにつかせるために承諾した。本当に?いや、本当は、頭の隅で、ひょっとしたら、井戸の中で交わした約束も、魔女の庭も、何もかも、捨ててしまって、生きたかったのかもしれない。今では思い出せない。どういうつもりだったのか、覚えていない。
けれど、記憶のなかったの400年。自分は、夜を恐れていた。記憶が戻ることを、無意識に拒絶していた。
サカズキがいなければ、ずっと、ずっと、逃げ続けていたのだ。五老星たちが、策を練って自分を目覚めさせなければ、ずっとずっと、あどけない無垢な顔をした悪意にまみれた生き物のままで、居続けたのだ。
自分はこんなにもずるくて、汚い。
そう、わかっているのに。こんなに卑怯で、ずるくて、汚くて、どうしようもない、ものだって、わかっていて、あとはただ、のために全てを捧げなければならないのに。
「ぼく、死にたくないよ……」
Fin
このシーンは絶対Sii嬢でやろうと決めてました。春日さん愛してます!!!!
そして本当にすいません!!!切腹はしませんが土下座はしますので!!!!