言ってシーン、とする二人。確証のあってのことではないが、予想としては十分すぎる要素を孕んでいるのだから、この推察には些かの自信があった。これでどこぞから少女たちの死体や何かでも上がればその場所から何事かを辿れるとそういう物騒な算段すらある。

自分の追う「助手」とこの「妙な村」「消えた少女」の謎がどう結びつくのか知れぬが、まぁ、完全無関係ということはないだろう。モノの流れ、と言えば極端に過ぎるが、全ての事柄には総じて流れというものがある。まぁ、展開と言えば身もフタもないけれど、つまりは、そういうことだ。
それに仮にも海軍本部の情報が「ここに助手がいる」とそれをに任せたのだ。これで無関係であったら、正直は海軍の今後を真剣に心配してしまう。

「って、まさかー。そんなバカなことあるわけねぇだろ。なんで村人全員が誘拐の共犯なんてするんだよ」
「知らないよ。ぼくだってこの島には着たばっかなんだ」
「大体、お前は何なんだ?この村の人間じゃねぇなら、旅行者か?」
「うん。旅の途中だよ」
「一人でか?」
「うん、そう」

鼻の長い少年に聞かれるがままうんうん、と答えていく。こちらとしては嘘偽りのない言葉をさらさら吐いているのだが、答えるたびに少年の眉間に皺が寄ってくる。それで最後の質問「移動手段は?」にあっさり答える。

「デッキブラシ」
「嘘だろ」

ドーン、と、効果音がかかったような気がした。はて、と小首を傾げては自分の回答のどれが嘘と思われたのかと疑問に思う。

「嘘言わないよ?ぼく」
「いや、普通にあり得ないだろ。さっきからお前の答え聞いてると。こんな小さなガキが海をん一人で旅行するわけもねぇし、大体、デッキブラシで移動って、オールかわりってことか?」
「うぅん、飛んで」
「いや飛べねぇから、普通に」

素直に答えたのに間髪いれずに突っ込まれた。それにはむっとする。嘘など言っていない。どうして信じないのか。この海で常識なんて、と思いかけ、ここは摩訶不思議一杯のグランドラインではなかったことを思い出す。それならデッキブラシでふわふわ空を飛ぶ生き物を見慣れなくてもしようがない。うん、と自己解決をして、ぽんと手を叩く。

「まぁそれはどうでもいいとして」
「よくねぇよ」
「キミたちの仲間の女の子がこの町の人間に攫われたなら、いずれ死体とかで見付かるかもよ」

そうしたらどうだかわかるだろう、と、そういうと、鼻の長い子供が蒼白になった。そして先ほどまで沈黙していた(というか、なぜかポケットから取り出した肉をばくばく食べていて静かだった)麦藁帽子の少年ががばっと、に詰め寄った。

「おい!お前!!ナミが殺されるってことか!!!?」
「え、え、え!!?」
「おい!どうなんだ!!!お前、何か知ってるのか!?」

さっきまでこちらに関与の一切をしなかった子供の突然の変貌、些かは困惑し、強くつかまれた腕を乱暴に払った。

「い、たいっ!何するんだよ!」

がばっと身を捩って一歩後ろに下がる。

「ぼくは嘘はいわない!この町では女の子が攫われる。ただ攫うのならいずれ戻ってきてこの町に数人は、女の子もいるはずだ。それが一人もいなくて、その上、見知らぬ人間まで攫うってことは、補充しないといけないってこと、殺されてるってことだよ!」

容易い推測である。攫われた、奴隷目的で入手するなりなんなりしても、新しく補充するということは空きが出たということ。この島の外に出されているという可能性もあるが、それなら、こんな町を作る必要などない。その理由もにはおぼろげにわかっていた。まだ全ては繋がらない、けれど、パンドラ、少女の誘拐、奇妙な町、かつてこれに類似した事件があったのは、よく覚えている。

「仲間が心配なら探しに行けばいいでしょ!こんなところで油売ってないで、」
「うぉおおーー!!!!ナミー!!!何処だぁあああ!!!!」

え、と、が言葉の全てを言い終わる前に麦藁帽子を被った少年が走り出していった。呆然とそれを眺めて、は「え、えーっと」と残された鼻の長い少年を振り返る。

「なぁに、あれ。ぼく、どこ探すべきかとか言ってないよね??」

この村の構造から見て、ある程度の見当は付いているのだけれど、とぽりぽり頬を掻く。随分久しぶりに、サカズキ以外に害されそうになったのでちょっと一瞬、気分が逆立った。うん、普通に大人気なかったと思う。

「心当たりあんのか?」
「うん、多分、この町のハズレにある森の中だと思う」
「森の中?」
「入り口がどうなってるのかは見ないとわからないけど、でも、たぶん建物が何かあると思うよ」

何の生活のにおいもしないこの町。まるで実験室のような、妙な、薬品のにおいがする。ベカパンクの研究所に随分長い間入り浸っていたこともあるので、そういう類のにおいはわかる。はもう一度クン、と鼻を利かせて目を細めた。

「うん、やっぱり妙だよね、この町」
「っと、俺はルフィを追いかける。おい、アンタ、えっと、悪ぃが入り江にある俺たちの船のところまで言ってゾロを呼んできてくれないか」

耳を澄ませば先ほどの麦藁帽子の少年が「ナミ〜!!!」なんてばたばた騒ぎながら走り回っている。この町を少しは警戒する心とか生まれてこないのだろうか。鼻の少年は警戒心があるらしく、このまま麦わらの少年をほうっておくことはできぬと、そういう判断。賢い子供。

「ゾロ?怪傑ゾロとか?」
「?い、いや、ロロノア・ゾロって、海賊狩りのすげぇ強い剣士なんだ」
「剣士、ふぅん、剣士か」

剣士はいいものだとは常々思っている。頷いてにっこり笑顔を浮かべる。

「うん、いいよ」
「あぁ。そうだ。すまねぇ!」

頷いたに礼をいい、鼻の長い少年が駆けていく。その姿を見送って、はさて、と、首を傾げた。

「なんでぼく、成り行きで団体行動しかけてるんだろ」

団体ではないのだが、まぁ、それはさておきとりあえずは頼まれたことは果たさなければと、そう思う。てくてくと歩いて行ってもいいのだが、あの二人の様子を見る限り早くした方がいいのだろう。、くるりと腕を振ってデッキブラシを取り出すと跨って地を蹴った。





















「えっと、この船かな?」

随分と可愛らしい船だとは見上げて思った。羊か?あれは。あんな海賊船診たことがない。サカズキの船もあぁいう可愛らしさがあればいいのに、と呟きかけ、いや、しかし実際サカズキが可愛らしい犬モデルの船を繰り出して海賊討伐とかしていたら……笑う。自分はとっても楽しく、笑うだろう。

「今度アイスバーグくんに頼もうかなぁ」

頼めば作ってくれるだろう。まずお金払うことが前提だ。アイスバーグ、そういうところはちゃっかりしている。しかし、衣食住を海軍本部に保証されているのでこの二十年ばかり稼いだことがない。無一文である。あ、でもシャンクス騙して換金所に連れて行けばいいかと、遥か遠い海にいる赤髪のトラウマを増やしそうなことを平然と考える。そういう外道なことばかり考えるから未だにシャンクスに避けられるのだとそういう自覚はにはない。

それでひょいっとデッキブラシに跨って、甲板に降り立った。

「あのー、すいません、全身タイツの怪傑ゾロさんいらっしゃいますか」
「そういう妙な格好をした覚えはねぇ。なんだ、お前」
「いたいけな美少女だよ」

ちゃきっと、首筋に刀が宛てられていた。気配も何もない。元々はそういうのを悟るのが得意ではないにしても、素早い動きだと素直に感心した。くるりと身を返して、自分の背後に回った男を見上げる。低い声なので年はいっているかと思ったが、まだ幼い、少年と青年の間のような、子供だった。

(おや、まぁ)

海賊狩のゾロ、の名前は聞いたことがない。というかこの二十年ばかり完全に外の世界と遮断されていたのだから、海軍でサカズキが「よし」と思った以外の情報をは頂かなかった。与えられる水だけをそろそろと有り難そうにのむ切花になった覚えはないのだけれど、しかし、こうして久しぶりに外を満喫していると、知らぬことが多くて面白い。どっちかというと、ポジティブである。

それでその、海賊狩の子供。深い森の泉のような緑の髪のきらきら煌く生き物。刀を三本携えているのが妙な格好とは思ったが、世にはいろんな剣士がいる。のよく知るミホークだって一度に結構たくさん刀を持つコレクター。珍しくはあるが、特別なことでもない。

「フツー自分で言うか?」
「事実だからね。世界で三番目に美人だよ、ぼく」
「控えめなのか、それ。っつーか何なんだお前」

問われては一度きょとん、と顔を幼くし、手を叩く。ぽん、と、さも今気付いたかのような、そういう仕草。

「あ、そうそう。あのね、君の仲間の女の子が攫われたかもしれないんだって。それで、麦わら帽子の子供と鼻の長い子供がこの町を駆けずり回ってるから、キミを呼んで来いってさ」
「その話を信じる理由は?」
「信じないで放置できるならそれでもいいよ」

の淡々とした説明をにべもなく、睨み一つと一言で返す、剣士の子供。おや、と本日二度目の関心をし、、同じくにべもなく返した。なんだ、この子供。先ほどの二人の仲間というらしいのに、随分と毛色の違うこと。それはそれで楽しいが、おおよそ他人というものを信用しちゃあいない、目、声、においをしている。

それでも人でなし、外道のにおいはしないのだから、面白いものである。はとん、と、突きつけられた剣を握った。痛い思いなどしたくもないので皮膚を切るほど力は込めぬ。軽く触れるだけ、それで、しまいだ。ぺきり、とこのまま皹でもいれてやれば愉快なのだけれど、そういう悪意は持ち合わせていない。それにミホークから常日頃剣は大事に扱うべきだとうんちくを頂いてきている。

「この町が妙なのは、まぁ行けばわかるし、麦わらの子供も鼻の長い子供も騒いでるから何か、変化が起きてるかもしれないし。ぼくはどうでもいいよ」
「もう一度聞く。テメェは何者だ」

突きつけられた剣の鋭さは変わらない。が触れているにも関わらず、それに動揺することも怯むこともない。このまま斬られれば痛い。ではきちんと言葉を返すかと、それはまた別の話。

はにっこりと、悪戯を思い浮かべて実行する悪童のような、そんな意地の悪い笑みを引いた。

「本当のことを話したって、きっと信じないと思うけど」
「ナミが攫われたことが本当だとして、テメェがその誘拐犯の一味じゃねぇ保証はどこにある。俺は女子供でも容赦はしねぇぞ」
「え、以外に外道?」

勝手に見損なうよ、と、そういうふざけた気配をいつまでも出していれば冗談抜きで斬られそうである。しかしその目に若干の焦り、がないわけではない。おや、と三度目の驚き。中々可愛らしいところもある子供じゃあないか。のことを敵と疑ってはいるようだが、しかし、仲間の少女が攫われたかもしれぬという可能性は段々浸透しているよう。

「まぁ。ぼくが敵か味方か、それはどうでもいいとして」
「どうでもよくねぇだろ」
「細かいことを気にすると禿げるよ……?」

あ、もう若干危ういね、と心底気の毒そうに眉を寄せて見上げれば、びぎっ、と、剣士の子供の眉間に皺が寄った。からかい甲斐があって良い。けらけら声を上げて笑うことはせぬが、胸中ではゲラゲラ笑い、とん、と、腕を振ってデッキブラシを取り出す。

「いっ!!?どっから出した!?それ」
「ぼくはいつでもデッキブラシは持ってるよ。さ、とりあえずは仲間のところに合流しないとね。剣士君」

驚く剣士の子供はさておいて、とりあえず、鼻の長い子供に頼まれた「ゾロを呼んできてくれ」は果たさなければならない。状況的に肯定も否定も出来なかったとはいえ、基本的に、約束事は守る。守りたいから守るのではなくて、普通に因果律。自分が人にしたことは自分に返ってくるというから、自分が約束を破ったら、いつか自分も破られると、それが怖ろしい、それだけだ。



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