「なんかものすごく、唐突にここにいるべきじゃないような気がしてきた……!!」

巨大なテーブル、マリージョアの晩一室。召集された七武海の面々、これからの陣営を伝えようとの意味も込めた食事会。広い部屋には厳重な警戒態勢がひかれ将校たちが並ぶ中、己の前に並んだ料理の数々に手をつけるのは一名のみ。後は飲み物を飲むわけでもなく沈黙。七武海とその他数名を除く全てが緊張感する中、その状況でよくもまぁ食欲が沸くものだと周囲に呆れられるほどの暴食っぷりと見せる黒髭ティーチはどうでもいいのだが、普段一緒になって騒いで飲食を楽しむはずのがやけに大人しかったのは妙だった。

海の魔女たる彼女、今のところは大将赤犬の監視下にあるのだから、今回の一件に関わるにしても関わらないにしても、いるべきはマリージョアではなくて海軍本部、であるはず。それが、しかし、彼女が裏切るのではないかと危ぶむ意見のために、現在この世界政府のもとに置かれているわけだ。まぁ、それは別ににはどうということもないだろう。

気落ちしたように見えるのは気に入りの菓子でもなかったのかと思うが、しかし記憶している限りの好きな原色のケーキやらなにやらは揃っている。長年の付き合いという中将のおつるも同席している中で彼女の沈む理由はなんだろうかと、テーブルに足を投げ出して椅子にもたれかかりながらミホークはぼんやりと考えていた。
と、思ったら、何やら突然、がはっとしたように顔を上げてぼそり、と言う。

「どうした」

唐突な魔女の呟きは立ち並ぶ海兵たちを驚かせ、緊張がまた種類の変わったものになった。それはどうでもいいのだが、ミホーク、さりげなくの手元にケーキの皿を押し寄せながら問う。声を出す元気はあったのだから、食べれないこともないのだろう。

「ぼくも「ハイ、あーん」的なことしたい!!」
「いや、おい、「も」って何だよ、「も」って。おい、また妙な電波受信しやがったのか?」
「ロマンだよ!ロマンスだよ!!王道だよ!!!っていうか盲点!?ぼくとしたことがすっかり忘れてたよ!!そんなおいしい展開!!」

そんなミホークの気配りなんぞ気にもせず、、ばっと椅子から立ち上がるとテーブルに片足をついて叫ぶ。行儀の悪いこと、と咎める者はいない。というか、まず揃った七武海の連中全員テーブルマナーがなってないのだから、今更海の魔女のその程度、なんのことがあろうかと、そういうことだ。
の絶叫を受けてすかさずドフラミンゴが突っ込みをいれるが、それは無視された。は隣のミホークを振り返り、やたらいい笑顔で親指を立てる。

「ミホーク!ぼく、ちょっとマリンフォード行ってくる!!」
「何を考えているのかさっぱりわからんが、あの男がお前の望む展開に付き合うとは思えんな」

どうせ後で合流するのだから今会いに行く必要はないと思うが、とかそういう突っ込みはせぬ男。とりあえず誰も彼もが只管「??」と状況についていけない中で冷静に突っ込んだ。

「酷いっ、ミホークぼくの夢をぶち壊すの!?まだ挑戦もしてないのにっ!!」
「何をどう間違えてもあの男がお前の給仕を受けるとは思えん」
「思うだけなら自由だよ!!」

既に自分でも無理だと思っているんじゃないか。どうせ行ったところで今の状況、相手にされるとは思えない。むしろ何を遊んでいるんだと一蹴(文字通り)されるのが関の山だろう。全く、それでも追いかけるのを止めないのだから見ているこちらはやりきれないものだ。ミホークは溜息を吐いていろんな感情をやり過ごした。

「フッフフフフ、なるほど、そいつはいいシチュエーションじゃねぇか……!!」

のシカトなんぞなんのその、早くも復活したドフラミンゴがこの妙な状況を把握したらしい、と同じようにテーブルに片足を着いて、キラーンと、それ、決めポウズなんですか、なんなんですか、と突っ込みを入れたい変な格好、片手の人差し指と親指をその尖った顎に当てて、口の端を歪める。

「フ、フフフッフフフ、なんだったら俺が、」
「鳥は穀類でもつついてろ」

最後まで言わせずがべしり、と、投げ付けたクッキーが当たった。それで勢いをそがれたのか、ちょこん、と、は椅子に座りなおす。そのままずるずると背もたれに寄りかかって、椅子の上で膝を抱えた。

「だって、ぼくも女の子だよ?ちょっとくらいそういうの憧れたっていいじゃん」
「だから俺と、」
「鳥は黙れ」

べしん、と、今度は容赦なくパイを投げ付けるが、さすがにそれは避けられた。さすがに二度も拒否られて、さすがのドフラミンゴもちょっと落ち込んだらしい。パイを避けたそのまま部屋の隅でのの字を描き始めた。そしてさらにとどめとばかりに、その背中に「でかい図体邪魔だから外でやれよ」と容赦のないの言葉。

「キシシシ、情けねぇなぁオイ、七武海ともあろう者がこんな小娘に振り回されてんじゃねぇよ」
「ゲハハハハハ!!!夢を追い求めて何が悪いんだ?!夢も語れねぇなら海賊なんて辞めちまえ!!!」
「蝙蝠も髭も黙れよ、お前ら樽に詰めて危機一髪にしてやろうか」

ドSである。前者モリアーはまぁ、にべもなく返されてもしようのないことを言っているが、ティーチはどっちかというといいこと言ったんじゃね?と思わなくもないのだが、、容赦ない。ばっさりと二人を切り捨てて、そしてその時の冷たい声を出した人物とは思えないほど、今度は明るい声を出した。

「おつるちゃんなら分かってくれるよね!乙女心」
、いい子だから今は大人しくしてなさい」
「うん、わかった」

すとん、と、足を降ろして頷く。素直だな!?と周囲の突っ込みはどこふく風である。それで色々思い出したのか、一度ぐぅっとなる腹を抑えて、きょとん、と目を丸くする。

「ねぇ、ミホーク、このケーキ食べていいかな?」

やっと気付いたのか、自分の前のテーブルに所狭しと並べられた、色とりどりの甘そうな菓子の山。ちょいちょいっと、ミホークの袖を掴んで問う。

「問題はないだろう」

なぜ自分が許可を出すのかわからないが、まぁ、聞かれたので答えた、という程度。しかしは嬉しそうに笑って、銀色のホークで苺を刺す。
その幸せそうなこと、先ほどまで毒舌を繰り広げた少女のものとは思えぬ様子。ミホークは帽子を被りなおし、背もたれに寄りかかってその顔を眺める。

まぁ、いろんなことが起こるのだろう。今のところ、自分だってどうするつもりなのかわからぬ、というのがミホークの正直なところ。赤髪が出てくるのならやりあうのも楽しかろう。白髭の船ならば骨のある剣士の一人や二人、いるだろう。とにかく退屈せぬならそれでよいと、やはりその程度。

ただ、にこにことケーキを切って口に運ぶの目元、泣きはらしたように赤いのがやけに気になるが、それは、知ったところでどうすることもできぬものだと、そういう諦めがミホークにはあったので、どうしようもない。



Fin



12月1日のジャンプネタ。ボア様が素敵過ぎます。T・ボーン大佐が出てきて本当に良かった・・・!!!